公益財団法人金子国際文化交流財団、アジア、奨学金、

* * 留学生の研究内容の紹介

奨学生の研究内容の紹介について

 本財団では留学生が研究・勉学に専念できるよう、奨学金という形で応援しております。この「奨学生の研究内容の紹介」ページでは本財団の奨学金を受けた方のうち、大学院博士後期課程在学中あるいは博士号を取得された方の研究内容を紹介しております。

 以下、令和6年度奨学生のリュウ・ユエさん(上智大学大学院)、ユ・ゴカさん(千葉大学大学院)、ムニラ・アジさん(埼玉大学大学院)、オウ・シイチさん(東京外国語大学大学院)
、ミャ・ニャイン・カイさん(東京農工大学大学院)、グエン・ティ・トゥ・ガーさん(東京農業大学大学院)、エルデネ・ビンデリアさん(お茶の水女子大学大学院)の研究内容をご紹介いたします。
 掲載期間は約1年間の予定です。

以下、寄稿時の所属でご紹介しております。

リュウ ユエさんの研究内容の紹介         2024年9月

中国語母語話者の日本語動詞アクセント修得・韻律特徴について

リュウユエさん 上智令和6年度(2024年度)奨学生

劉 ユエ(リュウ ユエ)さん

上智大学大学院言語科学研究科

博士後期課程1年

(2024年9月現在)

 私の研究テーマは、中国語母語話者の日本語学習者の日本語動詞活用形のアクセント習得と韻律特徴についての実証実験である。この研究は、日本語音声教育の質の向上と、より効果的な音声学習支援に貢献することを目指している。本研究の背景として、現在、中国語母語話者日本語学習者が増える一方、日本語教育現場では、音声教育は遥かに足りない状態であることがまず挙げられる。アクセントを例に取ると、日本語のアクセントには様々な規則が存在している。特に動詞の活用や複合動詞の場合は、単純動詞レベルでのアクセントとは異なっている。その違いに気づき、疑問に思っている学習者が少なくないが、教科書にはこのような内容があまり載せられていない。また、現職の日本語教師からも、学習者への音声指導自体が難しそうで自信がないと言う声もよく耳にする。そのため、学習者言語の音声体系に関する基礎知識や学習者の習得過程について十分に理解しておくことが肝要である。しかしこれまで、中国語母語話者を対象とする習得研究も多くなされてきたが、動詞活用形アクセントの習得についての研究はまだ多いとは言えない。特に、実験音声学の視点から、具体的な読み上げ音声データ及び合成音声データを利用し、知覚・産出の両方を着目する実証研究がほとんどないと言えよう。本研究は書き取りテストおよび産出テストを通して、今まで滅多に扱われていない中国語母語話者日本語学習者の日本語動詞活用形アクセント習得実態及び韻律特徴を考察する。特にピッチ再合成音声のデータの利用によって、学習者の知覚状況と習得過程をより精密に把握する。本論から得られた知見が教育現場で日本語の音声指導の質を高め、学習現場では音声の可視化によって学習効率を促進できると期待できる。

 

ユ ゴカさんの研究内容の紹介     2024年9月

「共在状態」における会話終結の考察

令和6年度(2024年度)奨学生

湯 悟柯(ユ ゴカ)さん

千葉大学大学院人文公共学府

博士後期課程3年

(2024年9月現在)

修士論文では、会話の中に生じる「終結」部分に焦点を当て、雑談の参加者がどのように終結に向けて会話を終わらせるのか、すなわち会話終結部の組織について、活動の連続から見る会話の組織といった観点から、考察した。会話終結部とは、会話参加者が会話を終了するために、言語的・非言語的な手段を用いることで、会話を適切に終わらせる部分である。
その結果、会話参与者は会話の話題が出尽くした時,「当初の活動(会話が始まる前に起きた活動)」の再開を提示することによって終結を持ち出すこと,および会話が二つの活動にまたがったものとして現れた場面において,会話参与者が終結の意図を表示している位置は,会話が中心的活動から付随的活動に移行している境目のところということが示唆された.これは従来の会話研究における会話をそれ自体で完結したものとして捉える視点に対し,前後の活動との関係の中で会話を捉えることの有用性を検証したと言える.
 博士段階の研究では、会話場面をさらに絞り、「共在状態」の会話終結における相互行為の特徴を中心に分析する。「共在状態」というのは、「一緒にいる」と感じうる場面の全体である。「共在状態」には、「出会っている状態」と「相互認知」という下位の状態が存在している。これを踏まえれば、それぞれの状態移行は名づけられる。具体的には、以下の図で示している。
ユゴカ 研究内容の図
人々は日常生活の中で、誰かと「出会っている」もしくは「出会っていない」ことを他者と示し合うためにさまざまな工夫をこらしている。出会いや別れの挨拶はその代表的な工夫の一つである。そのため、本研究では、共在状態において、出会いや別れの挨拶を交わさない場合では、人々がいかに相互行為を通して状態移行を達成するのかを明らかにする。

 

ムニラ アジさんの研究内容の紹介      2024年9月

藻類やアオコによるマイクロプラスチックの除去

令和6年度(2024年度)奨学生
MUNILA AJI(ムニラ アジ)さん

埼玉大学大学院理工学研究科

博士後期課程1年

(2024年9月現在)

 プラスチックの生産量は年々増えていて、ごみとして捨てられるプラスチックもまた増え続けています。ごみの処理には、焼却する、埋め立てる、あるいはリサイクルするといった方法があります。このように適切に処理されれば問題ないのですが、ごみが増えれば増えるほど適切に処理されないプラスチックごみも増えてしまうのが現状です。
 プラスチックごみが適切に処理されないと、川の流れや風に運ばれて海にたどり着きます。こうして、自然に還ることのないプラスチックが海にどんどんたまってしまい、海や海岸を汚し、さらに海の豊かな生態系を壊す原因になっているとして、世界的に問題視されています。
 マイクロプラスチックは水中生物に摂取される可能性があり、小さな生物から魚やその他の海洋生物まで、様々な生物がマイクロプラスチックを誤って摂取、または生物が摂取したマイクロプラスチックは食物連鎖を通じて上位の生物に蓄積され、生態系全体に広がり、人間にも移行する可能性があります。廃水中のマイクロプラスチックが飲料水や農産物などの供給源に侵入する可能性があります。マイクロプラスチックに含まれる化学物質や添加剤が、人の健康に対して悪影響を及ぼす可能性があります。しかし、マイクロプラスチックが水の中に存在する場合、一部の藻類はこれを摂取する可能性があります。最近の研究では水からマイクロプラスチックをとり除くのに藻類が役立つことが示された。

 

実験方法
 本研究では、マイクロプラスチック除去効果を最大化するためさまざまな藻類やアオコをテストすることで、最も効果的な種類の藻類やアオコを特定することが可能です。また、理想的な温度、光、pH条件をテストすることで、藻類やアオコの成長とマイクロプラスチック除去の両方を最適化することができます。
 さらに、藻類やアオコの成長と生理学的変化を評価するために、H2O2濃度やPOD活性などのストレス応答指標を使用します。これにより、藻類やアオコがマイクロプラスチックの除去においてどのように応答するかを評価し、最適な条件や効果的な処理方法を見つけたいと思います。
 培養を行い各濃度を一定したシアノバクテリア培養液にマイクロプラスチック入れ、照射した後サンプルを取り、OD730、クロロフィル、過酸化水素、タンパク質、GPX、APX、CATを測って、成長と生理機能の影響を検討します。

 

 以上が、マイクロプラスチックの除去に関する研究の中で行われている藻類やアオコについての実験や評価の要点です。これらの研究は、藻類やアオコを活用して環境におけるマイクロプラスチックの問題に取り組む上で重要な一歩となっています。

オウ シイチさんの研究内容の紹介      2024年9月

清末における王韜の改革思想

―西洋遊歴後の王韜の改革思想の特徴に注目して―

令和6年度(2024年度)奨学生
王 士一(オウ シイチ)さん

東京外国語大学大学院総合国際学研究科 

博士後期課程3年

(2024年9月現在)

研究背景:
 1860年代、清朝政府による西洋の科学技術の導入を目指す社会改革運動、「洋務運動」(1860前半―1890後半)が中国で始まった。「自強」「求富」のスローガンを提唱した洋務運動は、西洋の機械文明、すなわち「器」「物」の導入に重点を置いた改革思想であった。
 だが、洋務運動の中にあって1870年代には、新しい改革の考え方を唱える知識人もいた。その一人が王韜である。彼は、当時の主流の思想を超えて、軍事、技術に止まらず、政治、教育、外交など、より広く社会の改革の必要性を提案していた。王韜は、長く西洋人と接触した経験を持ち、西洋からの帰国後、香港で新聞紙『循環日報』の編集長を務めていた。王韜の『普仏戦記』などの多くの歴史著作は中国に止まらず、日本にも多大な影響を及ぼした。王韜は西洋遊歴前に既に西洋への強い関心を示しており、そうした認識は多くの領域に反映されている。本研究は「王韜の改革思想は新たな西洋認識に基づき、清末の改革思潮においてどのように展開されたのか」、王韜の清末期の改革の思潮における位置付けについて引き続き研究を進めるものである。
研究目的:
 本研究では、王韜の1870年代前半から晩年までの改革思想を清末改革思潮と関連づけて考察する。従来の研究の多くが王韜の思想の全体像については本格的に扱っておらず、まだ埋めねばならない論点を残している。修士論文で明らかにした王韜の思想変遷についても、彼のヨーロッパ遊歴後の詳細な考察は手つかずのまま残されている。本研究が目指すものは、修士論文で得た結論をもとに、その後の王韜の思想の変遷とその実相を明らかにすることである。博士後期課程においては、王韜の1870年以降の史料を整理し、彼の思想転換の特徴を明らかにすることを目的としている。それは、王韜の近代化思想の全体像を明らかにするものとなるはずである。
研究方法:
 本研究では、史料の整理と分析を主な研究方法とする。具体的には、1874年から1884まで王韜が主筆した『循環日報』、1890年から王韜が投稿し始めた『万国公報』、及び『普仏戦記』などの史料を利用し、また、王韜の『?園文録外編』の分析をもとに、彼の政治主張や改革思想の特徴を、『循環日報』のような史料分析を通じて明らかにする。
研究意義:
 王韜の思想は、伝統知識人と近代知識人の両面が同居しつつ転換しており、両者が彼の中にあって相互に衝突すると同時に融合の過程をたどっている。王韜の研究を通じて、清末における「新」と「旧」思想の衝突と、その融合の過程を明らかにする。王韜という思想家の思想転換の先駆性とその限界を解明し、その思想の持つ社会的意義について検討を加える。
この度は、貴財団の奨学金にご採用いただき、心より感謝申し上げます。おかげをもちまして、研究に専念でき、学会発表や論文投稿など、充実した研究生活を送ることができました。今後も、貴財団のご支援に恥じぬよう、研究に邁進してまいる所存です。重ねて御礼申し上げます。

 

ミャ ニャイン カイさんの研究内容の紹介 2024年9月

薬物標的同定の重要性と天然物を用いた化学生物学的アプローチ

2024ミャニャインカイさん写真令和6年度(2024年度)奨学生
MYAT NYEIN KHINE (ミャ ニャイン カイ) さん

東京農工大学大学院生命工学専攻

博士後期課程4年

(2024年9月現在)

1.はじめに
 薬物標的同定は、新しい医薬品を開発する際に極めて重要なステップです。薬物がどのタンパク質と結合し、どのようにその機能を変化させるかを理解することで、治療効果や副作用を予測しやすくなります。特に、がん治療においては、特定のがん細胞に選択的に作用する薬物を開発することが求められます。このため、薬物標的同定は、効果的で安全な医薬品を作るための基盤と言えます。
2.天然物とその可能性
 天然物は、自然界から抽出される化合物で、長い歴史を持つ薬物の源泉です。アフリカユリの球根から抽出されたOSW-1もその一例で、強力な抗がん作用を持つことで知られています。天然物は、その構造が複雑で多様な生物活性を持つことから、新たな治療薬の候補として注目されています。しかし、これらの化合物がどのようにしてがん細胞に選択的に作用するのか、そのメカニズムを解明することは容易ではありません。
3.化学生物学的アプローチの原理
 化学生物学は、化学的手法を用いて生物学的な問題を解決する学問分野です。このアプローチでは、化学修飾されたプローブと呼ばれる分子を用いて、特定のタンパク質と薬物の結合を検出し、その相互作用を解析します。私たちの研究では、OSW-1に化学修飾を施し、分子釣り竿として用いることで、その標的タンパク質を同定しようとしています。この手法により、OSW-1がどのタンパク質に結合し、その結合がどのようにがん細胞の機能を変えるのかを明らかにしようとしています。
4.研究の目的と意義
 私たちの研究は、OSW-1の抗がん作用のメカニズムを解明することを目的としています。これまでの研究では、従来の方法では見つからなかった新たな標的タンパク質が存在する可能性が示唆されています。この標的タンパク質を特定することで、新しい生物学的経路が発見され、副作用の少ない新しい抗がん剤の開発につながると期待されています。
本研究の成果は、がん治療の分野において大きな貢献を果たすとともに、化学生物学の新たな応用の可能性を広げるものです。今後も、より精密な薬物標的同定を行い、より効果的で安全な治療法の開発を目指して研究を進めてまいります。

 

グエン ティ トゥ ガーさんの研究内容の紹介    2024年9月

レタスの酵素活性と窒素蓄積に及ぼす光源と窒素供給条件の影響

  2024グエンティトゥガーさん写真令和6年度(2024年度)奨学生
NGUYEN THI THU NGA(グエン ティ トゥ ガー)さん

東京農業大学大学院国際食料農業科学研究科

博士後期課程2年

(2024年9月現在)

ベトナムでは、近年、肉類の摂取量が急増し、心疾患、糖尿病、肥満などの慢性疾患が増えています。Figuie, Murielが2003年に書いた論文「ハノイにおける野菜消費行動」では、ハノイの人々は野菜摂取が健康維持に重要だと認識していながら、農薬や化学肥料の多使用が健康に悪いと考え、野菜摂取を控えているという事実を明らかにしました。ベトナム料理では従来、野菜を使ったさまざまな調理法があり、今後、野菜の安全性を確保することが重要な課題となっています。
 一方で、日本やヨーロッパでは野菜に含まれる硝酸、亜硝酸などの基準が定められており、例えば、欧州委員会は、レタス中の硝酸塩含有量の最大許容限度は、生鮮野菜 1 kg あたり 2000 〜 4500 mg の範囲に設定されています。現在、私が所属している東京農業大学国際農業開発学科熱帯園芸学研究室では、トマトに含まれる硝酸、亜硝酸含量が有機栽培、水耕栽培、植物工場栽培で異なることを明らかにしましたが(Teradaら、Horticulturae9:367)、私は、レタスなどの葉物野菜を中心に、ベトナムの栽培された野菜と日本で栽培された野菜の硝酸、亜硝酸、ビタミンC含量の比較を始めました。これまでに得られたデータでは、日本の葉物野菜の中では、植物工場産のものが硝酸、亜硝酸含量が高く、有機栽培のものが低いこと、日本の葉物野菜と比べるとベトナムの葉物野菜のほうが硝酸、亜硝酸が低いことがわかりました。窒素肥料が水に溶けた状態で常に根から吸収される水耕栽培や植物工場栽培で硝酸含量が高くなり、とくに受光量が少ない植物工場栽培の場合、硝酸を亜硝酸に還元する硝酸還元酵素含量が低くなり、硝酸含量が高くなったと考えられます。
野菜の安全で健康的な栽培に貢献するために、窒素肥料の使用を減らし、土壌または水耕栽培を通じて光暴露を最適化することにより、低硝酸塩含有量の野菜を生産することが目的の研究があります。そのため、この研究は主に2つの部分から構成されます。まず第一に、異なる光源、日光を対照条件とし、人工光を処理条件として、葉菜野菜の窒素蓄積に与える影響を検討します。第二に、窒素供給条件を変えてレタスを栽培することに焦点を当てます。
今後、有機栽培ないし窒素肥料を控えた土耕栽培により、受光量を確保して、硝酸、亜硝酸含量の低い野菜栽培に貢献し、ベトナムにおける野菜摂取量増加に貢献したいと思います。

 

エルデネ ビンデリアさんの研究内容の紹介      2024年9月

モンゴル人日本語学習者の読解過程と

読解力向上に向けた協働的対話活動の試み

令和6年度(2024年度)奨学生
ERDENEE BINDERIYA(エルデネ ビンデリア)さん

お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科

博士後期課程3年

(2024年9月現在)

1.研究の目的と必然性
 本研究の調査は、モンゴルの大学(JFL環境)で日本語を学ぶ初中級学習者を対象とした読解授業の実践である。全部で15回の読解授業を実施し、前半では個人指導に焦点を当て学習者の読みの過程を分析し、後半では教室活動に着目しピア・リーディング活動を行い分析する予定である。本研究の目的は、@モンゴル人学習者の読解過程におけるつまずきや困難点を明らかにすること、AモンゴルのJFL環境における協働的ピア・リーディングの応用可能性を提示すること、Bモンゴル語と日本語の使用実態を明らかにすることである。以下では学習者の読解過程を分析した先行研究を概観し、本研究の必然性を述べる。
 日本語学習者の読解過程や読解力向上のための個別指導及び教室活動に関する研究は蓄積されており(石黒,2019;野田,2020)、その多くは日本国内のJSL環境の上級学習者を対象とした実践が多い(石黒,2019;野田,2020)。海外で日本語を学ぶJFL環境における研究の中では中国人学習者を対象としたものが多く(胡方,2019;邵,2020;藤原,2020)、ベトナム人、韓国人学習者を対象とした研究(Nguyen,2019;石塚,2009)も見られるが、モンゴルにおける初中級学習者の読解過程を分析した研究は見当たらない。このような状況の中、モンゴル人学習者の読解力は文法、語彙、聴解などの他の能力に比べて劣っており、実際に日本語留学試験を受けた学生が読解のみ50%程度しか得点できていないと指摘され、今後はモンゴル人日本語学習者の読解力向上のための指導法に関する研究の必要性が高まっている(国際交流基金,2020)。本研究は、モンゴル人学習者の読解過程におけるつまずきや困難点を明らかにすることで、彼らの読解力を向上するための指導法の確立に貢献できると考える。

 

2.従来の研究経過・研究成果又は準備状況
 日本語教育では、協働学習の具体的な学習活動として作文教育ではピア・レスポンス活動、読解教育ではピア・リーディング活動の実践が蓄積されている(池田,2004;舘岡,2011)。しかしながら前述のように、これまでの実践の多くが日本国内のJSL環境における中上級学習者を対象としており、JFL環境で初中級のモンゴル人学習者を対象とした協働による実践研究は少ない(ドルジ,2012)。筆者はモンゴル人学習者を対象にモンゴル語と日本語の使用を認めたピア・レスポンス活動を分析し、モンゴル人学習者の対話的活動における相互行為の様相とモンゴル語と日本語の使用実態を明らかにしたが(エルデネー,2019;エルデネー,2020;エルデネー,2024a)、どの研究もJSL環境における協働による作文活動を分析したものである。これまでJSL環境において作文力を向上するための実践が多かったが作文力だけではなく特に読解力は作文力、聴解力、会話力と異なり、読解力に直結するのは学習者が読み取った内容そのものであり、それは心の中にしかなく、可視化されにくいため、学習者の読解力の向上は難しいと言われている(石黒,2019)。こうした外に現れない読みの過程をあえて外に出し、読みの過程を仲間と共有して協働的で学ぶ方法としてピア・リーディング活動が提案されている(舘岡,2011)。また、読んだ内容をペアに伝える再話活動の実践も報告されている(小河原・木谷,2020;エルデネー,2024b)。

 

 以上のことを踏まえて本研究は、@モンゴル人学習者の読解過程を分析し、学習者の読みの過程におけるつまずきを明らかにする。A初中級レベルの学習者を対象にしたピア・リーディング活動の実態を明らかにしJFLの現場に生かすことを目指す。BJFL環境における学習者の母語と日本語の使用実態を明らかにし、エルデネー(2020)エルデネー(2024a)が分析したJSL環境における言語使用の実態を踏まえて考察する。

 

主な先行研究
 石黒他(2019)『日本語教師のための実践・読解指導』くろしお出版
 池田玲子(2004)「日本語学習における学習者同士の相互助言(ピア・レスポンス)」『日本語学』23,36-50.
 池田玲子・舘岡洋子(2007)『ヒ?ア・ラーニング入門?創造的な学びのデザインのために』ひつじ書房
 エルデネー ビンデリア(2024a)「ピア・レスポンス活動の相互行為におけるトランス・ランゲージングの実践−モンゴル人学習者の母語と日本語の使用実態を中心に−」『母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究』20, 85-98.
 エルデネー ビンデリア(2024b)(印刷中)「JFL環境で実践した読解授業における再話活動の試み−モンゴル人初中級学習者の相互行為における支援の様相に着目して−」『日本語教育』188,
 舘岡洋子(2011)『ひとりで読むことからピア・リーディングへ―日本語学習者の読解過程と対話的協働学習』東海大学出版会

 

トップへ戻る