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第25回金子賞
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第24回金子賞入選者論文のレジメ

「使える英語」教育のための試案

〜ELT(English Language Training) Instructionの実践とその成果:
ライティング,スピーキングの流暢さに焦点をあてて〜

大分県立大分上野丘高等学校 

麻 生 雄 治

 現行の高等学校学習指導要領(外国語・英語)では「実践的コミュニケーション能力の育成」が目標として掲げられているが,実際には本校のような普通科進学校では,大学入試対策と称して,英文読解を中心とした受容能力の育成に多くの力を注ぎ,ライティングやスピーキングのような表現能力の育成はあまり重視されていないのが現状である。そこで,これまでの筆者の英語授業を振り返り,これまでの英語授業は,学習者がいかによく理解するかを重視した「理解中心の授業」であったという反省から,「表現中心の授業」へとパラダイム・シフトした授業,”ELT(English Language TRAINING) Instruction”を考案した。授業では学習者に英語を書いたり話したりする機会をできるだけ多く与えることで,ライティングとスピーキングにおける流暢さを向上させようと試みた実践報告である。

 具体的にはライティングにおいては,センテンス・コンバイニングの指導・練習によって,生徒の書く要約文と自由英作文の流暢さがどのように変容するかを調査したものである。また,スピーキングにおいては,単語を口頭(英語)で説明する練習や1分間即興スピーチのトレーニングによって,発話語数がどのように変化するかを調査した。調査にあたっては,総語数とT-unit Lengthの指標を用い,流暢さを測定した。

 その結果,センテンス・コンバイニングの練習は,英文を要約することにおいて,また自由英作文においても,流暢さの点で向上が確認された。しかも,T-unitにおける語数の平均が増えていることから,より内容の濃い英文が書けるようになっていることが分かった。スピーキングにおいても,日常の授業において,単語を英語で説明する練習をしたり,あるトピックについて1分間ではあるが即興で話をする練習をしたりすることで,発話の語数(スピーキングの流暢さ)が促進されたことが確認された。

 
本稿では「使える英語」教育の一試案として,流暢さを重視する授業を提案した。流暢さを重視した授業は,生徒の表現力を育成するために効果があるだけでなく,それに加えて,表現することの楽しさ,相手に伝えることのおもしろさを味わうことができる。今後は流暢さに正確さも加えた,より高次なレベルの英語授業を模索し,さらに「使える英語」教育の実践に取り組んでいきたい。

「使える英語」教育のための試案

―インタラクションを通して「使える英語」を学ぶ授業−

茨城県立下妻第一高等学校

川 貞 夫

 外国語の学習者は、実際にその言葉を使うことによって、外国語を身に付けていく。単に知識を覚えても使わなければ外国語を身に付けることは難しい。
 
教室を離れて日常的に英語を使う機会のないほとんどの高校生にとっては、もし英語を使う場面を想定するならば、それは教室内でのこととなる。教室内で教師と生徒が、さらに生徒同士が英語を使った活動をする。これは教室内のインタラクション(相互交渉)と呼ぶことができる。この教室内でのインタラクションの機会を増やすことが、生徒達が英語を使い、使うことにより知識を確かなものにし、さらに、英語でのコミュニケーションを可能にし、さらなる学習に向かう動機付けとなる。
 しかし、実際には訳読式の授業からの脱却が困難である。その原因の一つに、予習において内容理解のために完全な和訳を求めることが、予習意欲を減じていることがある。その改善のために、教科書の本文をチャンク(文を主部・述部・修飾語部分といったまとまりごとに区切ったもの)に分けたものを訳すことを予習として課した。生徒達はあらかじめチャンクに区切られた教科書本文を渡され、その区切りごとに訳してくる。これにより、文全体を見渡して訳するのでなく、英文の流れに沿って訳し英文を理解してくるために、負担が少なく予習が行き届き、教室での訳読の時間が大幅に減り、残りをインタラクションに振り当てることができるようになった。
 授業でのインタラクションは一過性のものではなく、教科書に即した継続的なものである。各課各セクションごとに、生徒同士による、口頭での同時通訳的な英文の再生、および教科書内容についての連続的な英問英答を行っている。また各課の終了後には、その課の内容に関するショートスピーチをペアで実施している。
 これらの活動の成果を生徒へのアンケートや、全国的に行われている学力試験である進研模試の結果から検証した。特に学力試験の結果を用いたのは、インタラクションにしろコミュニケーション活動にしろ、ペアやグループの活動は、成績の向上に寄与しないのではと言う疑念が常に出され、そのことが、これらの活動が授業に取り入れない理由として使われるからである。
 
授業の観察やこれらの検証から、チャンク分けによる予習により、ほとんどの生徒が、予習を欠かさない学習習慣を身に付けることができたこと、またインタラクションを通して、生徒達が積極的に授業に取り組み、英語で考え、英語で話そうと意識するようになったことが示された。また学力試験の結果からはこうした活動が、成績の向上に寄与していることが示唆された。
 本稿においては、インタラクションを用いて、英語を使いながら学ぶ授業の実践について、具体的に述べた。


異文化理解と高校教育

〜専門科目「国際協力」とフィリピンで読み聞かせ交流〜

福岡県立あさか開成高等学校

庄 司 一 幸

 2001(平成13)年4月、私は全国初の「国際科学科」を有する福島県立あさか開成高校に転勤した。
 ここで、私は専門科目「国際協力」を、「国際科学科」としてふさわしい科目とすべく、これまで取り組んできた国際教育のすべてを注ぎ込んだ。キーワードは「共に生きる世界・社会を実現するために」である。この取り組みは、福島県国際交流協会発刊の『みんなでつなごう!教室と世界』という冊子に盛り込まれ、福島県から全国に発信することができた。
 また、前任校での「生徒活動型国際教育の取り組み」は、福島県立あさか開成高等学校読み聞かせボランティア部「オイガ」のフィリピンの子どもたちに絵本を贈る活動とフィリピンでの読み聞かせ交流として活動の場が世界に広がった。
 「オイガ」とはスペイン語で「耳を傾けてね」という意味で、あさか開成高校の「国際科学科」を代表する存在となった。
 第10回「金子賞」の郡山高校での「日本人としての自覚」をふまえた取り組みおよび第17回「金子賞」の石川高校での「生徒活動型国際教育」の取り組みは、私にとって最後の勤務校になるであろう本校で、「国際科学科」としてふさわしい学校づくりのために生かされている。


「使える英語」教育のための試案

「使える英語」の力と大学入試との関係
〜またその両立を目指した指導の試案〜

私立茗溪学園中学校高等学校

松 崎 秀 彰

1.はじめに
 大学入試の英語と「使える英語」の力は両立できないものであると考えられている傾向があるが、本当にそうなのであろうか。本研究では、本校生徒のデータから、大学入試の英語と「使える英語」の力の関係を探り、その上で両者の力を両立できるような授業の試案を提言したい。

2.英語力測定試験について
 
本校では生徒の英語力測定のためにCASECテストを行っている。これはPC上で約30分で英語力を測れるテストで、語彙・表現・聴解・書取の4パートから成る、コミュニケーション能力を測るテストである。テスト後TOEIC換算点も含めてすぐに結果が分かる。同じく英語によるコミュニケーション能力を測定するTOEICテストとも高い相関(0.83)があり、信頼できるテストであると言える。
 
また本校では毎年約200名弱の生徒が、1月に行われる大学入試センター試験を受験する。それに先立って、12月に高3全員にCASECテストを受験させている。この2つのテストの結果を掛け合わせて、また各大学の入試の合否結果も合わせて、大学入試と「使える英語」の力の関係を探る。

3.「使える英語」と大学入試
 
上記テストの結果から、傾向として、センター試験で190代点台を取るにはTOEICで700点を超える力が、170点台を取るには600点前後の力が、150点台を取るには500点前後の力が必要であることが分った。TOEICスコアの470点から730点は「Cレベル」(日常生活のニーズを充足し、限定された範囲内では業務上のコミュニケーションができる)とされていて、センター試験で7〜8割得点できる生徒は、英語でコミュニケーションを取るのに必要な文法・構文・語彙は習得し、基本的な英会話を行う能力は備えていることになる。
 また個別の大学の結果でも、「難関大学」と言われる大学の合格者のTOEICスコアは、センター試験の7〜8割の得点者と同じ「Cレベル」にあることも分かった。
 
つまり、大学入試の英語の力と「使える英語」の力の基礎は決してかけ離れたものではないということが分かる。足りないのは実際に英語を使用する「運用力」ではないか。

4.総合的英語力向上のための試案
 現在の日本の多くの学校の英語授業が、教科書の精読に多くの時間を割かれているという前提に立った上で、授業を「英語のトレーニング」的活動と、「英語を楽しむ」活動という2つのフレームワークに分けて考えることを提言したい。
 「英語のトレーニング」にあたるのは、反復や覚える作業が必要な、文法、単語、構文、長文の精読等で、教科書とは別の教材を使ってやることをはっきりさせて、小テストなども行いながら生徒が定着できるようにしていく。教科書は精読以外の活動も取り入れ、内容把握中心として、定期テストもそれを踏まえた内容とする。
 「英語を楽しむ」活動では、英語の「運用力」をつける活動も計画的に入れつつ、生徒達の英語に対する興味・関心を高めて英語学習意欲を高めることを目指していく。そしてそれこそが、大学入試の英語と「使える英語」の力を両立させる道となるのではなかろうか。